愛のカタチ

取引先に爽やかなイケメンがいる。長身の細マッチョで身のこなしがスマート、頭も良くて仕事もそこそこ出来る。「なんでこんなとこにいるの?(悪意はない)」と聞きたくなるくらい超イケてるメンズである。ただし絶対に笑わない。何があっても沈着冷静で表情一つ変えません。上司の些細な言い間違いに横からキラッと眼を光らせるんじゃねぇ。

仕事ができると言ってもねー、赴任してきたばかりっていう条件付きですからねー。武器を持ちすぎてるにしても、その態度はどうかと思いますよ、私は。なにより、今のキミにはわからないかもしれないけど、キミが立っているそこは完全な縦社会だぞ。そーゆー態度を取ってると、いつか足元をすくわれますぜ。

という目でイケメンを観察していたある日、彼がミスをした。下々であるこちらが先方にミスの指摘をするのは心苦しいが仕方ない。相変わらず感情の読み取れない表情で「すみませんでした」と頭を下げるイケメン。チャンスだ。こういう時は相手の性格を読む絶好のチャンスですよ。

「こちらこそ理解力がないせいで、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」と深々頭を下げる私。私は全然悪くないんだけどー。下々の言葉を真に受けて「ソウダ!オレワルクナイ!」と開き直ったり、完全に責任転嫁して逆恨みのような感情を持ったり、当然ながら素直に悪かったと思える人もいる。私は暗に『許し方』を示唆しているのだけど、さて彼はどう出てくるのか。

結論から言うと彼は勘の強い人だった。かすかな沈黙の後、何かを悟ったように視線を上げてから姿勢を正し、もう一度「いえ、申し訳ありませんでした」と深く頭を下げた。…ただのイケメンではなかったっぽい。上司が横からかぶせるように軽めの謝罪をしたところで速やかに談笑に移り、和やかムードで解散。

人は誰でもミスをする。私側が許すのは当たり前だけど、まだ若いキミは周囲からも『許される存在』でいた方がなにかと得なのである。『愛される存在』でいた方が絶対的に有利なのであーる。人を許すってことは自分も許されるチケットを手に入れるってことです。その上司いい人なんで、少々のことは目を瞑ってあげてください。

課題の分離をすると、彼が傲慢(に見える)な態度を取ることによってどんな評価を受けるかは彼の課題です。それから私の言動を彼がどう受け止めるかも彼の課題です。しかし私は相手の性格によって対応の仕方を変える必要もあることから、自分の課題として彼に投げかけたわけです。ですからたとえ責任転嫁されたとしても全然構わないのです。

課題の分離って「そんなのシラネ」って切り捨てるだけではないと思うんですよね。ただ投げかけてそのあとは放っておく。それが「相手をコントロールしようとしない」=「信じる」ってことなのかなと。

それをきっかけにイケメンは極々薄いながらも笑みを見せるようになった。今では極稀ながら冗談めいたことを口にすることもある。その冗談までもスマートでびっくりするわ。最強か。そうそう、先日もちょっと彼の上司がやらかしちゃったんですけど、上手くフォローしてましたね。最強だな。

 

それにしても。「笑わない人が笑う」こんなシチュエーションは、ふとIさんを思い出してしまう。そうだった。すっかり忘れてたけど、私はIさんに会うまで上手く笑えなかったんだ。私がIさんからもらったものを誰かに繋いでいくこと。これもある意味、愛のカタチなのかな、と思ったりする。