Iさんの話34~拒絶~

Iさんの目が笑わなくなった原因は少なからず自分にあるのかも知れない、私はそう考えていた。

去年、私がお酒をやめる前に会った時、Iさんは私にある提案をした。それは純粋に私のためであり、慎重に言葉を選んでのことでした。だけど私は受け入れることができなかった。

この時すでに私の身体は限界を迎えており、自己愛との戦いや友人の死といった精神的疲労もピークに達していたのだと思う。意識も定まらず、私は言葉を選ぶことも出来なかったので、私の態度は彼への「拒否」だと捉えられても仕方がなかった。

彼の仕事が忙しいのは事実だし、私の態度など気にも留めていないかも知れない。だけど思慮深い彼が言葉を選び抜いたのに対し、私はそれをわかっていながら彼への配慮を欠いたのも事実。

とはいえ拒否するつもりなど全くなかったのですが、私に起こっていることや体調の悪さを彼は知る由もない。たった一瞬の気の緩みが彼を傷付けてしまったんだとしたら。

私達の間にはあれからぎこちない空気が流れている。私がこれを書かなかったのは、その疑いを持つまでに時間がかかったことと、自分は彼に甘えていたのだという気持ちを認めたくなかったからです。 

再びその話題が出たら彼がどう思っていようと謝ろうと思っていたし、何より今の状況をどうにかしたかった。だけど彼はその話題を二度と口にしない。それはつまりそういうことだと思う。

彼の目から笑顔を消した原因が私かどうかはわからないけど、もしそうなら自分は何もしないで彼に笑って欲しいと思うのはお門違いもいいとこだ。仕事では一瞬一瞬が全てチャンスだと偉そうに言っておきながら、一番大切な人にはこのザマである。情けない。

私はどうするべきだろう。個人的な会話ができないだけに、言葉では私の気持ちを伝えることができない。今の状態では私が神妙になればなるほど、その態度は「拒絶」になるんじゃないだろうか。

 

昨日Iさんに会う前、過去を思い返していた。ここに書くのは初めてだと思うけど、前の恋人と記している彼とは一度別れており、その間に付き合っていた人がいる。とても素敵な人だった。

その人と付きあった事により、私は彼の周りの女性から傷付けられる出来事が多くて、はっきりと「どうしてあなたなの?」と言われたこともありました。綺麗で華やかな女性達からすれば、当たり前の反応だったのかも知れない。

気後れする私を堂々と周囲に紹介してくれ、二人の時と変わらない優しさを恥ずかしげもなく与えてくれる彼に対し、私は終始周りの視線を気にして彼のことを全く見ていなかった。それどころか避けようとする事さえありました。

私は他人の目があるところで特別扱いされるのがとても苦手だ。優越感に浸れるほどの強さもない。要するに自信がないだけなんだけども、その場から逃げたくなってしまう。

結局最後はその中の女性とトラブルになり、あっさりと別れてしまった。というより一方的に私が彼から去ったのですが、私にとっては思い出したくない過去の一つでもある。未練もないし後悔もしていませんが、私はあの時どうするべきだったのか。

彼がそういう性格だったのか、良かれと思ってそうしていたのかはわかりませんが、私のことをどんな思いで見ていたのか。私が彼に対して取った行動はただの拒絶でしかなかったんじゃないか。あの時、彼はどんな気持ちだったかと想像すると胸を掻き毟りたくなった。

私は本当は失うことが怖かったんだ。まだ目の前に起こってもいない未来に不安を抱き、自分が傷付かないことだけを考えていた。私が守りたかったのは自分だけ。

愛って難しい(辛)