スタートライン

私は自分がどんな気持ちで営業をしているか、ほとんど口に出した事がありませんでした。何となく綺麗事のように取られそうだったし、自尊心が低いのでおこがましいような気もしていた。仕事だけではなく、自分の思いを伝える事がとにかく下手だった。

Iさんに出会ってから”言葉の重さ”に対して考える事が多くなりました。Iさんの言葉には他意がない。あったとしても見抜く事ができない。丁寧に言葉を選んで伝えるというのは、こんなにも真っ直ぐに心に入ってくるものなんだと驚いたのを覚えています。

いつからか私は会社の人に、さりげなく自分が何を考えて行動しているのかを伝えるようになりました。何かの結果を求めたのではなく、そうした方がいいような気がしたからです。

今、私が会社に戻ると嬉しかった出来事や些細な報告をするために駆け寄ってきてくれる人達を見て、何とも言えない気持ちになる。精一杯の努力をしているのに誤解されてばかりだと悔し涙を流した過去を思い出して、これは現実なのかと思う事もあります。

私は自分の境遇を嘆いてばかりで、誤解を解く努力なんて全くしてこなかった。理解される事を放棄したのは自分だったんだと思い知らされる。行動を見てわかって欲しいという甘えと傲慢さが招いた結果だった。

そして言葉を選ぶことに慣れてきて知ったのは、普通の人はごく当たり前にそれを行っているという事実。他人を不愉快にしないための行動が板についているんだろう。

この記事で「特別な何かをしてくれるわけじゃないけど、少なくとも自分を傷付けない人。それは優しい人だって、どうしてわからなかったんだろう。」簡単にこう書いていますが、その裏にはどれほどの見えない努力と思いやりが隠れていたのか、当時はまだ気付いていませんでした。

少し前、社内の男性から「とても変わった」と言われましたが、それは当たり前の日常の中に愛が溢れていると知ったからだと思う。

今、生きている事が嬉しくて仕方ありません。やっとスタートラインに立てたのかも知れない。