爪が伸びた。

私は爪を切るのが嫌いです。面倒くさいから。

切ろうかどうしようか悩んでいたら、不意に亡くなる間際の父のビジョンが浮かんだ。

昔から爪が少しでも伸びると気になって仕方ない父が、病室のベッドの上で「爪が伸びるのが早いなぁ。やっぱり楽したらいかんな。」と呟く姿。

 

「人間、楽をすると爪が早く伸びるんだ」が口癖だった父。

父の信じた迷信は『苦髪楽爪』からきているのだろう。苦しい時には髪がよく伸び、楽をしているときには爪がよく伸びるというアレ。

確かに父は苦労の多い人生だったと思う。

でもさ。爪が伸びるのが早くなったんじゃなくて、爪が切れなくなっただけだよ。爪切りを握る力もなくなったから、伸びるしかなかったんだよ。

それと。伸びない爪に喜びを感じるような人だから、苦労したんだよ。

 

生きてる間に教えてあげられなくてごめんね。